毎日新聞連載小説
津島佑子 作
井筒啓之 画
2009年4月22日
(画像の日付が間違えています)
けれど私たちには、ほかのナゾが生まれてしまった。
妊娠した体で日本の港に引き揚げてきた女性たちに、
いったい、なにが起きたのだったろうか。笑子の母もむりやり、
どこかに連れ去られそうになったという。
もしかして、大陸から妊娠して戻ってきた単身の日本人女性たちは、
中絶手術を強制されていたのではないか。そこで、私たちは調べてみた。
その頃の日本では、中絶手術は違法行為だった。
したがって、引き揚げ女性に対して実施された中絶手術のことを、
役所の公式記録に書くわけにはいかなかったのだ。
引き揚げ女性の望まない妊娠については、笑子の母親が引き揚げ船で聞き知ったように、
「不法妊娠」というマカ不思議な言葉を使っていた。