毎日新聞連載小説
津島佑子 作
井筒啓之 画
2009年1月6日
「輝かしきソ連軍」とはこんなものか、と私たちはびっくりしたし、
日本人や中国人に対して、居心地の悪い恥ずかしさも感じた。
まだ七歳だった私には、おそろしいだけの存在だった。
彼らはみんな腹ペコで、顔はヒゲだらけ、長い間、
風呂にも入っていないようだった。
彼らの話すロシア語はなんだかヘンテコで、とても聞き取りにくかった。
体の小さなアジア人種の兵士も見かけた。
ソ連領土の隅々から、「大祖国戦争」のためにかき集められた
少数民族の兵士たちだった。小柄なその兵士たちは概して
乱暴なことをしなかった。
そもそも、ソ連のために戦争などしたくもない兵士たちなのだった。